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小川琢治(教授) 分子研リポート2004 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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分子スケールナノサイエンスセンター

分子金属素子・分子エレクトロニクス研究部門

小 川 琢 治(教授)

A -1)専門領域:有機化学、分子スケールナノサイエンス

A -2)研究課題:

a) サブマイクロメータ長π共役ポルフィリンワイヤーの合成と表面上での自己組織化 b)粗表面で分子像観察可能なポルフィリンワイヤーの合成と,その単分子電気特性の計測 c) レドックスアクティブな有機金属錯体を用いた単電子素子の構築

d)有機金属ポリマーでつないだナノギャップ電極の電気特性の研究 e) 有機分子の構造を利用した金ナノ粒子の自己組織化の制御

f) ナノ球リソグラフィーを利用したナノ構造体の構築とその物性の研究 g)多探針電導性原子間力顕微鏡(分子スケールプローバー)の作成 h)超分子的手法を用いた、分子ナノ構造体の形成

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 原子レベルの精度の設計が可能で,しかも巨視的な(マイクロメーターからミリメーター)大きさを持つ構造体の作 成法の確立は,ナノサイエンスの基盤となる重要な課題である。これを,有機合成的手法と分子の自己組織化能を利 用して実現しようとした。まず,直径が約1 nm,長さが 100∼ 500 nm程度のポルフィリンワイヤーを合成し,これを キャスト法でグラファイト上に展開し原子間力顕微鏡で観察したところ,展開条件により①高さ約0.4 nm,鎖間距 離約 5 nmで並んだ矩形構造体,②高さ約 0.4 nm,鎖間距離約 10 nmで並んだ構造体,③高さ約 1.0 nm,鎖間距離約 15 nmで並んだ構造体の3種類ができることがわかった。高さが分子力場計算で求めた値(約1 nm)より低いのは,基盤 上での吸着と,原子間力顕微鏡のカンチレバーによる圧縮のためと考えられる。①の構造体は,分子鎖が1本ずつグ ラファイト表面に並び,表面上で分子鎖が横に広がって横の分子鎖との疎水相互作用により構造体を形成した物と 考えている。②の構造体は,①の構造体の上に2層目の分子鎖が並んだもので,1層目の分子鎖の影響で2層目分子 同士の疎水相互作用が減り分子鎖間の反発により,1本おきに並んだ物ではないかと考えている。③の構造体は,高 さがおよそ2倍になっていること,分子鎖間の距離が①のおよそ3倍になっていることなどから,分子鎖が2∼3 本絡み合いバンドルとなり,これが並んで組織体を作った物と考えている。こうした巨大分子は,1 nm 以下の小さ な分子とは異なる複雑な自己組織体を生じる点で大変興味深い。巨大分子の構造を直線以外の物にした場合の自己 組織化を現在検討中である。

b)単一分子の電気伝導度測定は既に2∼3の研究例が報告されているが,実際に単一分子を計測しているとの証拠は, いずれの場合も間接的なものしかなく,走査プローブ顕微鏡などで単一分子像を確認しながらの電気伝導性の測定 例はない。分子像を観察しながら,電気伝導を計測する手法としては,後述する多探針電導性原子間力顕微鏡を用い る方法,蒸着電極および1探針電導性原子間力顕微鏡を用いる方法,ナノギャップ電極を用いる方法を考えた。いず れに方法でも,分子の長さが100 nm以上ないと計測が困難である。また,ナノギャップ電極を用いる方法や,ゲート

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電極を使う実験では,その計測基板が原子レベルでは平坦でなく1 nm程度の凹凸がある。そうした粗い表面上でも 分子像が観察できるように,分子ワイヤーの直径が分子力場計算による見積もりで約5 nmの物を設計した。デンド ロン保護されたジアセチレン連結ポルフィリンワイヤーの合成を行い,キャスト法,L B トラフを用いる方法によっ て基板(HOPG,酸化シリコン)上に分散させた。原子間力顕微鏡による分子像の観察の結果,キャスト法によるHOPG 基板上においては,基板結晶表面に沿った分子の配列が観察された。L B トラフを用いて酸化シリコン基板上に展開 した場合は,ネットワーク状の配列構造が観察された。観測された分子の高さは,およそ2.4 nmであり計算で求めた 値のおよそ半分であるが,これも基盤上での吸着と,原子間力顕微鏡のカンチレバーによる圧縮のためと考えられ る。この酸化シリコン基板の凹凸はおよそ 1 nmであり,分子の直径が小さな物では分子像の観察はできなかった。 今回合成した分子を用いるとかなりの凹凸がある表面でも分子像の観察が可能であることが明らかになった。更に ネットワーク構造に金属電極を蒸着させ,電導性原子間力顕微鏡を用いて電気伝導性の測定を行なった結果,分子 上における電流観測が示唆される結果を得た。

c) これまでに報告されたクーロンブロッケード現象は,金属の微粒子を用いており,微粒子の体積により決まる静電 反発エネルギーにより生じている。分子は,分子軌道により決まる電子順位を持っており,電子が注入されるとその 次に入ろうとする電子がその順位により決まる静電反発により同様のクーロンブロッケード現象が見られるはず であると考えた。金属微粒子であると室温でクーロンブロッケード現象を観測するには 1 nm以下の直径が必要で あり,このサイズの大きさのそろった微粒子を作成することはそれほど容易ではないが,有機分子であれば本質的 に全ての粒子=分子が同じ静電エネルギーを持つことになるので,クーロンブロッケード現象を利用した単電子素 子の材料としては金属微粒子よりも優れた物になることが期待できる。しかし,通常の有機分子であれば,1電子が 注入された段階でアニオンラジカルになりあまり安定ではない。そこで,いくつかの安定な酸化還元状態を取るこ とが可能な有機金属錯体を用いることにした。ルテニウム錯体の周辺をデンドリマーで覆いトンネルギャップとし た分子を合成し,これと絶縁体ポリマーの混合物を約 20 nmのギャップを持つ電極にキャストした。その電気特性 をはかるとdI/dV-Vスペクトルにおいて比較的再現性良くピークが観測された。これは,当初期待していた分子によ るクーロンブロッケード現象であると考えている。

d) ルテニウム錯体の両端にターチオフェニルをつけた分子をポリマー化させ,約20 nmのギャップ電極につけたデバ イスを作成した。このデバイスのI-V特性を種々の温度で計測した結果を,様々な伝導機構を用いて解析した。その 結果,電圧領域,温度領域により伝導機構が異なることがわかり,フランケループール型の伝導や,ショットキー型 伝導などが重なり合っていると考えると実験結果が解析できることがわかった。この実験において,伝導に関わっ ている分子の数はおよそ数百∼千分子程度と見積もっている。単分子におけるこうした緻密な計測はまだ行われて いないが,同様の解析が可能になると考えている。

e) ポルフィリン環に4つないしは8つのアルキル鎖を付けその末端にジスルフィド基をつけた分子を合成した。その 大きさは,3–5 nmであり,ジスルフィド基が金に吸着すると最大で5 nm四方の面積を一つの分子で覆うことが可能 になる。今回は,この種の分子を金ナノ粒子に吸着させ,一つないしは二つの分子が金ナノ粒子一つに吸着した化学 種を作り,分子同士の相互作用を利用してこの金ナノ粒子を自己組織化させる試みを行った。この組織体の透過電 子顕微鏡による解析を行った結果,1次元性の高い金ナノ粒子集合体が形成していることが判った。

f) もっとも自由度が高く一般的なナノ構造の作成方法は,電子線描画装置を用いる方法であり,現在のC PUなどに用 いられている V L S I も元の回路パターンはこの手法で作成されている。最先端の技術では既に 10 nmを切るパター

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を作るため複雑なパターンは長時間かかり多量生産には不向きであるなどの欠点がある。そこで,より安価に,電子 線描画装置よりも微細なパターンを描画でき,多量生産が可能である手法を開発中である。こうした方法として,ナ ノ球の自己集合を利用したナノ球リソグラフィーや,分子定規法が既に報告されているが,この手法を発展させた, ナノロッドや様々なナノ構造体の作成を行っている。

g)ナノ構造体の電気特性を再現性良く,高精度で計測する装置として多探針電導性原子間力顕微鏡(MP-C A F M)を開 発中である。多探針走査トンネル顕微鏡(MP-ST M)は,既に市販品があるが,原子間力顕微鏡はまだ実働している物 は世界中で1台もない。しかし,電導性がそれほど高くない単一分子の電気伝導を計測することは,MP-ST Mでは不 可能であり,MP-C A F Mが必須である。この装置を電導性カンチレバーで使用することで,分子スケールの万能プロー バーとすることが目的である。この装置が完成すると,上記で作成した様々な新規ナノ構造体の電気特性が効率よ く,高精度で計測することが可能になる。現在,物材機構,J E OL との共同研究体制を整えているところであり,今年 度中には完成の予定でいる。

h)ロジウムポルフィリンを基本骨格とした分子と,ロジウム金属への配位能力を持つ分子を,特殊な条件で水/空気 の界面に広げることで,簡単に1マイクロメーター程度の長さの1次元ナノ構造体ができることが判った。この構 造体の高さはおよそ1 nm程度であり,おそらく分子の一本鎖であると思われる。この手法は,非常に一般性が高く, 様々な構造の分子を用いることで簡単に種々のナノ構造体を作成することができ非常に興味深い。このナノ構造体 の電気物性,光物性を現在研究中である。

B -1) 学術論文

K. ARAKI, H. ENDO, G. MASUDA and T. OGAWA, “Bridging Nanogap Electrodes by In Situ Electropolymerization of a Bis-Terthiophenylphenanthroline Ruthenium Complex,” Chem. Eur. J. 10, 3331–3340 (2004).

K. ARAKI, H. ENDO, H. TANAKA and T. OGAWA, “Simultaneous Multi Curve Fitting Analysis of Temperature Dependent I-V Curves from Polythiophene Bridged Nanogap Devices,” Jpn. J. Appl. Phys. 43, L634–L636 (2004).

H. TANAKA, M. E. ANDERSON, M. W. HORN and P. S. WEISS, “Position-Selected Molecular Ruler,” Jpn. J. Appl. Phys. 43, L950–L953 (2004).

B -2) 国際会議のプロシーディングス

H. TANAKA, P. S. WEISS and M. W. HORN, “Fabrication of Periodic Standing Rod Arrays by The Shadow Cone Method,” Proceedings for Asian Conference for Nanoscience and nanotechnology, Asia NANO (2004).

B -3) 総説、著書

小川琢治 , 「単一分子デバイス」, 第5版実験化学講座 28「ナノテクノロジーの化学」 , 日本化学会編 , 丸善 (2004). 小川琢治 , 「少数分子における電子伝導についての最近の話題」, 固体物理 609–616 (2004).

田中啓文、マリー・アンダーソン、リンピュウ・タン、モーガン・ミホック、マーク・ホーン、ポール・ワイス, 「自己組織化分子多層 膜を用いた超高精密ナノリソグラフィー」, 表面科学 25, 40–45 (2004).

小川琢治 , 「少数分子の電気伝導特性」, 表面科学 25, 732–737 (2004).

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B -4) 招待講演

田中啓文 , 「有機分子を用いた新しいナノリソグラフィー法」, 日本学術振興会マイクロビームアナリシス第 141 委員会 , 名 古屋 , 2004年 9 月 .

小川琢治 , 「分子ナノ構造体の形成と単一・少数分子計測」, 名古屋大学有機・分子エレクトロニクス拠点形成研究会 , 名 古屋 , 2004年 10 月 .

田中啓文 , 「F abrication, Observation and Measurement of Nanostructures」, 金属研究所セミナー, 北京中国科学院金属研 究所 , 2004年 11 月 .

小川琢治, 「有機分子を利用したナノ構造体の形成と物性の研究」, 第25回日本化学会九州支部シンポジウム, 福岡, 2004 年 12月 .

B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

独立行政法人通信総合研究所基礎先端部門関西先端研究センターナノ機構グループ併任職員 (2000- ). 日本学術振興会産学協力研究委員会「分子ナノテクノロジー研究委員会」委員 (2001- ).

日本学術振興会「次世代エレクトロニクスに向けての物質科学とシステムデザインに関する研究開発専門委員会」委員 (2001- ).

文部科学省 科学技術政策研究所科学技術動向研究センター 専門調査員 (2001- ).

国際高等研究所 特別研究「次世代エレクトロニクスに向けての物質科学とシステムデザイン」プロジェクトメンバー (2001- ).

応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会幹事 (2002-2003). A sia Nano国際会議,組織委員 (2002- ).

産業総合研究所 客員研究員 (2003- ).

科学技術振興事業団 戦略的基礎研究「精密分子設計に基づくナノ電子デバイス構築」 チームアドバイザー (2003- ). 科学研究費の研究代表者、班長等

小川琢治,基盤研究 A (No.15201028),研究代表者 (2003-2006). 田中啓文 , 萌芽(No.16651073), 研究代表者 (2004-2005).

B -8) 他大学での講義、客員

東京都立大学理学部,集中講義「ナノサイエンス」,2004年 2 月 4-5日 .

C ) 研究活動の課題と展望

A -3の項で述べた以外に,これからの課題として次のことを考えている。

・ 全自動合成装置を使った巨大分子の合成法の確立:巨大分子を合成するのは,いまだに非常に時間と労力がかかる 作業である。しかし,その大部分は単純作業であり,自動化が可能であると考えている。2003年度の科学研究費助成 金により購入した全自動合成装置を利用して,単にプログラミングするだけで任意の組み合わせと大きさの巨大分 子を合成できるシステムを開発したい。これにより,これまで不可能だと考えられていた複雑な巨大分子も合成が

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・ 新規電極材料,新規分子−電極結合法の研究:単分子の電気特性は分子−電極の界面の影響を大きく受けているこ とがわかってきた。これまでの金−チオール以外の手法で分子を電極につなげることが必要である。

・ 単分子デバイスの光機能の研究:単分子レベルの受光,発光の研究を行いたい。

・ 分子構造研究系の岡本教授との共同研究で,S NOMを用いた単分子レベルでの光物性の研究を行っており,単分子 フォトニクスの研究へと広げたい。

参照

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